Chapter 5: Expectancy

Roese, N. J. & Sherman, J. W. (2007)

In A. W. Kruglanski & E. T. Higgins (Eds.) Social Psychology 2ndEdition: Handbook of Basic Principles (pp.91-115). Guilford Press.

Rep. 道家瑠見子(一橋大学大学院博士後期課程) 2007/09/07

目次

1. FUNCTION

1) Behavior Regulation

2) Efficiency

3) Summary

2. DETERMINANTS AND PARAMETERS

1) Likelihood

2) Confidence

3) Abstractness

Semantic Expectancies Are Efficient /

Episodic Expectancies Provide Depth Abstractness Is Temporally Dependent

4) Accessibility

5) Explicitness

6) Summary

3. BEHAVIORAL CONSEQUENCES

1) Semantic Expectancies Provide General Guides for Behavior

2) Expectancies for Success Facilitate Success

3) Optimistic Bias Shifts as a Function of Commitment to a Course of Action

4) Anticipation of Setbacks Facilitates Corrective Action

5) Expectancies Can Be Self-Fulfilling

6) Summary

4. COGNITIVE CONSEQUENCES

1) Expectancy Confirmation and Disconfirmation

Information Seeking / Processing Fluency / Attention / Interpretation /

Conceptual versus Perceptual Encoding

2) Coping with Disconfirmation

Disconfirmed Expectancies Evoke Processing That Is Resource Demanding /

Disconfirmed Expectancies Activate Sense Making /

Sense Making Results in One of Four Inferential Products

(IGNORING, TAGGING, BRIDGING, REVISING) /

Discrepancy Magnitude and Schema Complexity Determine the Inferential Products

of Sense Making

3) Representation

4) Memory

Recall and Recognition/

Response Bias, Search Strategies, and Familiarity Increase True and False Memory of

Expected Information/

Moderators of Memory Effects

5) Summary

5. AFFECTIVE CONSEQUENCES

1) Behavior-Oriented Affective Consequences

Negative Affect Fuels Behavior Change/

Negative Affect Is the Default Response to Processing Fluency Disruption/

Expectancy Disconfirmation Shifts Evaluation via Contrast Effect

2) Optimism and Affect Regulation

3) Broader Affective Consequences

Attitudes Reflect the Intersection of Expectancy and Value/

Aesthetic Appreciation Hinged on Moderate Expectancy Disconfirmation/

Humor Derives from Resolution of Incongruity/

Depression Involves Hopelessness Expectancies

4) Summary

6. CONCLUSION

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

はじめに

どの人間社会でも、未来を予測する能力があると主張する者には特別な地位が保たれてきた(預言者や占星術師、まじない師…)。予言は、望ましいものを手に入れる力、嫌なものを避ける力、征服する力、飢饉や洪水を避ける力をもたらしてくれる。

未来を予測することの基本的な価値は現在でも変わっていない。未来を予測することは未来を効率的にナビゲートすることである。

期待とは

未来に関する信念をあらわす一般的な用語。

週末の夕食の計画などの短期的なものから、資産投資といった長期的な予測まで、人々は未来について考え、その考えを進行中の判断や理由づけ、意思決定、行動に用いている。

期待(定義)=未来の事態についての信念や、未来の出来事の可能性の主観的推定

(Olson, Roese, & Zanna, 1996←このハンドブック第1版の「期待」の章)。

第1版との違い

本章の議論の調子は第1版と同じであり、結論も同じだが、以下の3点において進展。

1)心的表象の不変と修正の緊張関係についての新しい洞察

2)一般的期待のレビューの中に統合されるべき、ステレオタイプ研究(特定の社会集団への期待)の知見

3)効果的な行動制御、調整、自動性の原理に基づく機能的視点で本章を構成

本章の構成

1)期待の機能的基礎を説明する理論的枠組み

2)期待の決定因とパラメータについて議論

3)期待の主要な機能としての行動制御についてレビュー、主要な機能を支える認知的結果、感情的結果についてレビュー

1. FUNCTION

機能 (p.92)

期待の最も一般的で基礎的な機能は、効果的な行動を導くこと。

期待は過去の経験から少しずつ情報を収集。効果的であるためには、すばやくなされなくてはならない。

1) Behavior Regulation 行動制御 (p.92)

効果的に行動することは、過去の経験から情報を引き出すこと。

期待は過去と未来が出会ったところにあり、現在の行動を駆動する。

正確さ、コントロール、自己改善、親和、感情制御への欲求などは社会心理学理論の中心にある(e.g., Fiske, 2003; Sanna, 2000; Sedekides & Strube, 1997)。

これらの理論の概念の基礎的な機能は、行動を制御すること。

人間は生存のため以外のことも(例えば、結婚や仕事、引越しの計画について詳細に考え、それを実現するためにたくさんの時間を過ごしている)している。期待は生存のための道具であるだけでなく、現代の生活に不可欠なものでもある。

期待のシステム(シカゴからメンフィスまでのドライブ旅行を例に考えてみる)

上位目標(目的地はメンフィス)

計画(下位目標の集合。自動車のメンテナンス、ガソリン補給、途中の宿泊について)

意味的期待

(意味記憶から引き出される。例えば道路交通法、州越えフリーウェイの見取り地図、

ファストフードのロケーション)

エピソード的期待

(エピソード記憶内にある類似した過去経験から引き出される。この前のドライブでは

ハイウェイのI-57を通った、去年の長期休暇期の交通渋滞の程度)

制御フィードバック・ループ(Austin & Vancouver, 1996)と期待のシステム

制御フィードバック・ループは目標の特徴を明らかにし、同時に様々なレベルの期待のシステムに広がる。

ネガティブ・フィードバック・ループ…現状を理想もしくは期待されている状態と比べて、両者にズレがある場合、そのズレを減らすようコントロールを変更。

現状情報が期待された状態と類似→状況はノーマル。行動を変化させる必要はない。

現状情報が期待された状況と非類似→状況はアブノーマル。行動を変化させる必要がある。

ノーマル状況…期待は前提を満たすのに役立つ。

アブノーマル状況…期待はあるべき状態へのリマインダーとして役立つ(Roese, 2001)。

現状と期待された状態のオンライン比較における処理のしやすさ

処理しやすい→入力情報が円滑に流れる→期待された状態or過去のテンプレートとマッチ

(e.g., Benjamin & Bjork, 1996; Jacoby & Dallas, 1981; Johnston & Hawley, 1994; Whittlesea & Williams, 2001)

処理しにくい→ミスマッチを検出(Lieberman, Gaunt, Gilbert, & Trope, 2002)。

2) Efficiency 効率性 (p.93)

期待がうまく機能するには、情報が正確に伝えられるだけでなく、効率よく伝えられる必要がある。

すばやく簡単に適用されない期待は、迅速な意思決定に全く役立たない。そのような状況では行動を導く期待を適用することが重要。

3) Summary まとめ (p.93)

期待とは…

行動を導いたり、制御するときに用いられる心的構成概念である。

生存のための道具。

役立つ情報をすばやく、処理資源を必要とせずに、という意味で効率よく行動を導く。

2. DETERMINANTS AND PARAMETERS

決定因とパラメータ(p.93)

期待はいくつかのパラメータによって特徴づけられる。

期待のパラメータ5つ(1)可能性、2)確信、3)抽象度、4)接近可能性、5)顕在性)についてここでは議論。

1) Likelihood 可能性 (p.94)

期待=起こる可能性

ある確率で出来事が起こる・起こらない可能性。0%から100%(0から1)で。

例;彼が禁煙に成功する確率は10%くらいだろう。

主観的期待=可能性の信念(Olson and colleagues, 1996)

主観的期待は、行動や認知を導く程度に影響し、経験によって確証or非確証。

期待の可能性の決定因

過去経験からの情報―――――――→期待可能性

社会的学習・メディア ↑

推論・帰属

コンセンサス情報は実存属性を高める(Kelly, 1967)ことから、コンセンサス情報が信念の実存性、客観的な現実性を高めるだろう。コンセンサス情報によって期待が事実であるように見えてくる。

属性が信念の不安定性よりも安定性を反映しているときもまた(Weiner, 1985)、期待の可能性を高める。

例;「彼は能力がないから(安定特性)、試験に落ちた。だから来年も受からないだろう。」

2) Confidence 確信 (p.94)

確信度は、起こる可能性とは直交関係(独立)。

生起可能性が高くても低くても確信している・していないと言えるから。

例;ジャックは、勝つ可能性は20(95)%くらいだと確信している。

期待の確信度の決定因

過去経験・他者との会話からの情報―――――――→期待確信度

間接的経験よりも自分の直接経験の方が確信度に強く影響することは、態度研究が明らかにしている(Fazio & Zanna, 1981)。

期待と他信念の結びつき―――――――→期待確信度

意味的に関連する信念との結びつきが強いと、信念の確信度が高まる。

後知恵バイアスの研究(Hawkins & Hastie, 1990; Roese, 2004)

結果に対する最初の期待を思い出そうとするとき、結果を含んだ情報を無視することが難しいことを示している。

新しい情報を既存の知識構造に統合すると、知識構造の特定の要素が真であることの確信が高まるということは、回顧的な判断にも将来の判断にも当てはまる(Fischhoff, 1976; Gilovich, Kerr, & Medvec, 1993; Koriat, Lichtenstein, & Fischhoff, 1980)。

自信過剰

未来を予想するとき、予測と一致する情報に注意がいきやすく、自信過剰が生じやすくなる(Dougherty, Gettys, & Thomas, 1997; Dunning, Griffin, Milojkovic, & Ross, 1990; Griffin, Dunning, & Ross, 1990; Hirt & Markman, 1995)。

期待の確信度と生起可能性の両方の決定因

メンタル・シミュレーション

未来の出来事の結果について鮮明なメンタル・シミュレーションすると、その出来事が起こりそうだという信念を強め、その信念の確信度が高まる(e.g., Anderson, 1983; Kahneman & Tversky, 1982; Koehker, 1991)。

説明

説明を求めた場合にも同様の効果がある(Ross, Lepper, Strack, & Steinmetz, 1977; Sherman, Skov, Hervitz, & Stock, 1981; Wilson & LaFleur, 1995)。

個人差

親和欲求の高い人ほど、将来の見通しについて自信をもっている(Hirt, Kardes, & Markman, 2004; Krugrlanski & Webster, 1996)。

3) Abstractness 抽象度 (p.95)

抽象度は期待の機能的基礎である3つのことを含む(1)効率性、2)深さ、3)時間依存性)。

抽象的な表象は経験の要約。

Semantic Expectancies Are Efficient 意味的期待は効率的(p.95)

意味的期待は、エピソード的期待よりも効率がよい。

意味的期待は、進行中の経験から引き出される既存の知識構造であり、記憶に蓄積され、必要なときに検索される。

意味的期待は正確で一般化された知識をすばやく伝え、必要とする資源も少なくてすむ点で意味的期待とエピソード的期待は異なる。

新しい状況に直面したとき、顕著に意味的期待の効率性のよさがあらわれる(McClelland, McNaughton, & O’Reilly, 1995; Nosofsky, Palmeri, & McKinley, 1994; Sherry & Schacter, 1987)。

Episodic Expectancies Provide Depthエピソード的期待が深みをもたらす(p.95)

効果的な行動制御には、文脈特定の情報をもつことも重要。

例;近所の犬たちはフレンドリーでおとなしいが、角の家のスパイクという犬はどう猛だ。

意味知識とエピソード知識の相互機能を指摘する研究

特定のエピソードは関連する意味的期待と結びつき、意味的期待の一般的ルールに例外があることを組み込む(Bartlett, 1932; Graesser, Gordon, & Sawyer, 1979; Klein et al., 2002; Nosofsky et al., 1994)。

エピソード記憶の進化目的は、一般的期待を侵害する例を蓄えておくこと(McClelland et al., 1995; Schank, 1982; Sherry & Schacter, 1987)。

Abstractness Is Temporally Dependent 抽象度は時間に依存する(p.96)

期待がより抽象的になるのは、遠い未来に焦点を当てたとき。

解釈レベル理論(Trope & Liberman, 2003)

解釈レベル理論における抽象度は、価値や動機づけの時間的シフトを説明するのに役立つ。

遠い未来よりも時間的に近い未来にあるものや出来事に価値をおく(Loewenstein, 1987; Loewenstein & Prelec, 1993)

促進焦点の目標は遠い未来に向けられ、予防焦点の目標は近い未来に向けられていた(Pennington & Roese, 2003)。

4) Accessibility 接近可能性(p.96)

期待の意識上へののぼりやすさ

期待の確証・非確証は期待の接近可能性の重要な決定因。

期待確証→結果に関する情報が抽象化され記憶に蓄えられるため、接近可能性は低い。

期待非確証→現状と期待とのズレを理解しようとするため、期待の接近可能性は高い。

5) Explicitness 顕在性(p.97)

顕在的期待(explicit expectancy)か潜在的期待(implicit expectancy)か

潜在的期待

期待は、概念と属性の結びつきに過ぎない。その結びつきは、意識されない(e.g., Greenwald & Banaji, 1995)。

車の運転、レストランでの食事、友達との会話といった複雑な期待も潜在的。行動を導く多くの期待は意識されない(Bargh & Ferguson, 2000; Nisbett & Wilson, 1977)。

顕在的期待

意識的。報告されるような期待は期待の中では例外。

期待が意識化されるのは、期待をはっきりと答えるよう人から尋ねられたときか、目標に向かってがんばっているときに心の中で意識的に期待を形成させたとき。

言いたくない(unwilling)期待・わからない(unable)期待は間接指標で測定

1970年代;ボーガス・パイプライン技法(Roese & Jamieson, 1993にまとめられている)

間接的指標の展望として Fazio & Olson, 2003を参照。

・人種に関するステレオタイプに自分でも気がついていて、それを隠したい場合など。

・知覚、判断、行動を導いている期待を同定することができない場合など。

間接指標が発達してきたことで起きた問題「顕在的期待と潜在的期待が異なるときはどうする?」

同じものに対して顕在的期待と潜在的期待の二つの表象(e.g., Wilson, Lindsey, Schooler, 2000)。

表象の違いではなく、測定方法の違い(e.g., Conrey, Sherman, Gawronski, Hugenberg, & Groom, 2005; Fazio & Olson, 2003; Roediger, 1990)。

顕在的期待と潜在的期待のどちらが実際の行動を予測する?

場合によって異なる。

顕在的期待と潜在的期待にズレがない→両方とも同じように行動に影響。

ズレがある→調整変数が存在。

顕在的指標(顕在的な人種態度やステレオタイプ)は、潜在的指標よりも、顕在的行動(白人・黒人のサクラへの言語反応や印象評定)に影響(e.g., Dovidio, Kawakami, Johnson, Johnson, & Howard, 1997; Fazio et al., 1995)。

研究者が期待から何を予測したいのかによって期待の測定方法は変わってくる。

6) Summary まとめ(p.98)

期待を特徴づける5つの媒介変数(可能性、確信度、抽象度、接近可能性、顕在性)。

媒介変数に影響するものについて。

期待が効果的な行動を導くという原理について次の節でまとめる。

3. BEHAVIORAL CONSEQUENCES

期待がもたらす行動結果(p.98)

期待の主要機能は、行動をうまく、効率的に導くこと。

ここでは、どのようにして期待が成功行動を導くのかを概観。

1) Semantic Expectancies Provide General Guides for Behavior

意味的期待が行動に一般的指針を与える(p.98)

期待の最も基礎的な機能は、進行中の行動に広く一般的な指針を確立すること。

意味的期待は抽象的で、概して潜在的。

食べ物を買う、街中を通る、仕事を片付ける、余暇を楽しむ…意味記憶を構成する一般的知識の莫大なネットワーク。

一般的な意味知識から引き出された前提を頼りに新しい状況は対処される。

2) Expectancies for Success Facilitate Success 成功への期待が成功を促進する(p.98)

未来の成功に関する期待が成功を促進する

(Lewin, Dembo, Festinger, & Sears, 1944; Oettingen & Mayer, 2002; Vroom, 1964)

目標としかるべき行動への関与がパフォーマンスを促進(Locke, Shaw, Saari, & Latham, 1981; Mitchell, 1974)。

成功の期待が、自信(Feather, 1966)・課題への持続性(e.g., Battle, 1965; Carver, Blaney, & Scheier, 1979)を高めることによって行動に影響する。

2つのメカニズム

成功する能力と成功することが生み出すポジティブ感情という意味での楽観性(e.g., Bandura & Locke, 2003; Erez & Isen, 2002)。

計画の精緻化によって高められた実行意図(e.g., Brandstätter, Lengfelder, & Gollwitzer, 2001; Gollwitzer, 1999; Pham & Taylor, 1999)。

期待が目標関連の行動に影響するのは、楽観性だけによるのではない

制御焦点理論の予防焦点目標。

防衛的悲観主義(McMullen & Markman, 2000; Norem & Cantor, 1986; Norem & Illingsworth, 1993; Showers, 1992)。

まとめ

楽観性はデフォルト。

自己に関連する結果への期待は楽観的な方向へ歪んでいる。

3) Optimistic Bias Shifts as a Function of Commitment to a Course of Action

行動に向かわせる機能としての楽観性バイアス(p.99)

行動を起こす前は、正確さに動機づけられている。

いったん行動が起こると、楽観性が高まり、進行中のパフォーマンスを促進(Gollwitzer & Kinney, 1989; Taylor & Gollwitzer, 1995)。

4) Anticipation of Setbacks Facilitates Corrective Action

心配事を予期することが行動を正してくれる(p.99)

人々は、起こりうる問題を予期し、事前対策として解決手段を考えている(Aspinwall & Taylor, 1997; Sanna, 2000)。

予期的後悔の研究

人々は、起こる可能性のある未来の意思決定や行動の結果について考え、未来の後悔を避けるような意思決定や行動をとる(Zeelenberg, 1999)。

人々は、未来の後悔を避けるために、客観的には悪い結果を選択することがあり(Zeelenberg, Beattie, van der Pligt, & de Vries, 1996)、実際に感じる後悔の量の予測を誤る傾向がある(Crawford, McConnell, Lewis, & Sherman, 2002; Gilbert, Morewedge, Risen, & Wilson, 2004)。

障害がたくさんある状況では、絶えず警戒している行動が効果的となり得る(Norem & Cantor, 1986; Showers, 1992)。

5) Expectancies Can Be Self-Fulfilling 期待の自己成就(p.99)

自己成就予言・行動的確証

予測エラーの自己削除効果(Sherman, 1980)。

自分の未来の行動について顕在的に予測をすると、顕在的期待が形成され、それと一貫する情報が記憶の中でアクセシブルになる。この情報が後の行動を導くことになる。行動が先行期待を確証するようになることで予測の「エラー」は消えていく。

自己成就予言

初期の研究;教師の期待が生徒の達成行動に影響(Jussim, 1986; Jussim & Harber, 2005; Rosenthal & Jacobson, 1968)。

後の研究;

・パートナーとの関係についての期待

(Downey, Freitas, Michaelis, & Khouri, 1998; McNulty & Karney, 2002)。

・人種ステレオタイプ(Word, Zanna, & Cooper, 1974)。

・このような効果は自動的に生じるため、知覚者も(Chen & Bargh, 1997)、

ターゲットも(Vorauer & Miller, 1997)気がついていない。

プラシーボ効果

詳しくは前版を参照(Olson et al., 1996)。

自己成就予言の効果を低減するもの

正確さへの動機づけ

期待に意識的に気がつくこと(Miller & Turnbull, 1986)。

6) Summary まとめ(p.100)

ここは本章の中心概念。成功への期待は成功を促進する。

期待が行動に影響するのは、様々な認知的プロセスを介してのこと。

次の節は、期待がもたらす認知について。

4. COGNITIVE CONSEQUENCES

期待がもたらす認知(p.100)

とくに、注意、符号化、表象、記憶という観点で、期待がもたらす認知的結果は研究されてきた。

期待が機能的であるのは、期待が、役立つ情報の割合を最大にしてくれるから(e.g., Sherman, 2001; Sherman, Lee, Bessenoff, & Frost, 1998)。

この原理は、処理資源が限られているときに、期待が注意、符号化、表象、記憶に影響してくることを説明。

1) Expectancy Confirmation and Disconfirmation 期待の確証と非確証(p.100)

期待の認知的結果は、入力情報が期待を確証するか、しないかによって異なる。

期待が確証されたとき

状況はノーマル。現状の行動でOK。

現状と理想の状態が近似しており、行動を修正する必要は今のところない、というフィードバック・ループ。

期待が確証されないとき

現状のままでは危険。

次の3つのことが必要。1)警戒、2)問題解決のため行動を修正、3)正しくない信念を正しい信念にする

期待確証情報・期待非確証情報の機能的な意味はそれぞれ異なり、それによって、期待情報・非期待情報の注意、符号化、表象、記憶は変わってくる。

次に、その心理プロセスについて、情報集め、情報直面時、符号化、表象、記憶の順にみていく。

Information Seeking 情報集め(p.100)

期待に不一致な情報よりも、一致する情報を求める傾向あり(Klayman & Ha, 1987; Lord, Ross, & Lepper, 1979; Skov & Sherman, 1986)。

Processing Fluency 処理しやすさ(p.101)

期待一致刺激を処理するときは、主観的に処理しやすく感じ、快適さが経験されるが、期待不一致刺激を処理するときは、処理しにくく感じ、驚きが経験される。

Attention 注意(p.101)

人々が期待不一致情報を積極的に求めるということはないかもしれないが、そのような情報にふれたとき、徐々に注意深くなり、期待一致情報よりも不一致情報に注意が向けられるようになる。

驚きをもたらす刺激に対しては、すばやく自動的に注意が向けられる(e.g., Barthalow, Fabiani, Gratton, & Bettencourt, 2001)。

期待侵害パラダイム(violation of expectation paradigm)を用いた研究

赤ん坊は、驚かされた興味深い物や出来事を長い時間見つめていた。このことは、赤ん坊の脳に、物や出来事に対する期待が表象されていたことを示している(Baillargeon, Spelke, & Wasserman, 1985; Wang, Baillargeon, & Brueckener, 2004; Wilcox, Nadel, & Rosser, 1996)。

期待不一致情報への注意シフトの調整変数

利用可能な処理資源

認知的負荷がかかっているとき、期待一致情報よりも期待不一致情報に注意深くなることが強まる。

動機の個人差

集団に対するステレオタイプを順応性のあるものとして見ようと動機づけられている人が、認知的負荷をかけられている場合には、ステレオタイプ一致情報から不一致情報への注意のシフトが起こりやすかった(Plaks, Stroessner, Dweck, & Sherman, 2001)。

Interpretation 解釈(p.101)

期待が世界の見方、理解に影響するその2形態

1)ヒューリスティックとしての期待

説得研究

専門家が言ったことに対する期待は、議論の強弱に関する理論よりも、説得に強く影響する(e.g., Petty & Wegner, 1998)。

ステレオタイプ研究

個人の行動ではなく、ステレオタイプに基づく他者判断(e.g., Sherman et al., 2000)。

2)解釈

経験を期待に同化させる形で事物を解釈する。

符号化システム、フレーム、スキーマ、スクリプト、ステレオタイプの研究。

初期の研究

概念や推論、カテゴリーラベルがどのように後続の解釈に影響するかを検討(Bruner, 1957; Bruner et al., 1956; Barley & Gross, 1993; Hastorf & Cantril, 1954; Higgins, 1996; Kelly, 1955; Vallone, Ross, & Lepper. 1985; Wilson, Lisle, Kraft, & Wetzel, 1989)。

最近の研究

複雑な目標志向の期待(Kawada, Oettingen, Gollwitzer, & Bargh, 2004)。

自己確証情報を積極的に求める(Swann, Stein-Seroussi, & Glesler, 1992)。

期待が強ければ強いほど、そして刺激が曖昧であればあるほど、期待同化効果は強く生じる(e.g., Alba & Hasher, 1983; Budescu, Kuhn, Kramer, & Johnson, 2002; Swann & Ely, 1984; Trope, 1986; Tuckey & Brewer, 2003)。

Conceptual versus Perceptual Encoding 概念符号化 vs 知覚符号化(p.102)

期待一致情報は、知覚された詳細が符号化されない。

期待不一致情報は、理解がうまくなされないけれども、詳細(物理的特徴など)についてはよく符号化される(e.g., Sherman, Lee, et al., 1998)。

注意の場合と同様、資源が限られているときに期待不一致情報がよく符号化されることが顕著に(e.g., Sherman, Conrey, & Groom, 2004)。

詳細を記憶しておくことは、後に期待されていない出来事の事実を再構成するのに役立つ。

概念符号化について書いてあるか??

2) Coping with Disconfirmation 期待の非確証に対処する(p.102)

期待の非確証=認知と現実のズレ。予測の失敗。→失敗の原因を調べる努力・修正する努力

次に、期待が確証されない場合に生じる認知的修正ついてまとめる。

Disconfirmed Expectancies Evoke Processing That Is Resource Demanding

期待が確証されないときの処理には資源が必要 (p.102)

期待が確証→自動的処理 / 期待が非確証→努力が必要な処理 (Bargh & Thein, 1985; Stern, Marrs, Millar, & Cole, 1984; Wilson et al., 1989)。

期待されていた刺激よりも期待されていなかった刺激の方が、最初の知覚処理に時間が長くかかる(Jentzsch & Sommer, 2002; Matt, Lethold, & Sommer, 1992)。

驚きは、関連情報のより深く注意深い分析を必要とし、予測の失敗を説明、理解するよう方向づける。

Disconfirmed Expectancies Activate Sense Making 非確証期待は理解しようとさせる (p.102)

非確証期待が理解を促す

原因帰属

ジョンは同調性にかけるため、スーザンの足を踏んだ。

Hastie, 1984; Kanazawa, 1992; Wong & Weiner, 1981

反実思考

ジョンが高校時代にもっと練習していたら、もっと良いダンサーになっていたかもしれない。

Roese & Olson, 1997; Sanna & Turley, 1996

後知恵バイアス

私はジョンがスーザンの足を踏むとわかっていた。

Roese, 2004; Schkade & Kilbourne, 1991

Sense Making Results in One of Four Inferential Products

理解の結果は次の4つの推論結果のうちのどれかに(p.102)

【その1】IGNORING 無視する(p.102)

理解しようとした結果、洞察や新しい情報が何も得られなかった場合には、ズレは無視される。

認知的不協和理論の「軽視(trivialization)」(e.g., Simon, Greenberg, & Brehm, 1995)

【その2】TAGGING 付け加える(p.103)

理解しようとした結果、未来のために、既存の期待に付け加えられる。

【その3】BRIDGING 橋渡し(p.103)

期待と非確証出来事の間に概念的な橋を渡す。

一般ルールの例外をサブタイプカテゴリーとして精緻化。

ステレオタイプ化の研究

集団メンバーの期待不一致行動は、サブタイプとしてか、ステレオタイプの新しいサブクラスとして説明される。驚きをもたらす行動はステレオタイプの中にある一般的ルールの例外として説明される(Hewstone, Johnston, & Aird, 1992; Kunda & Oleson, 1995, 1997)。

橋渡しの原理は、スキーマ知識が進行中の経験を考慮して精緻化されることで、機能的な深い処理が行われていることを示している。これによって、次の行動はうまく効率的に導かれる。失敗から学ぶ。

【その4】REVISING改訂(p.103)

ズレが期待の土台を改訂。根本的なレベルでスキーマを変化させる。

Discrepancy Magnitude and Schema Complexity Determine the Inferential Products of

Sense Making ズレの大きさとスキーマの複雑さによって理解の推論結果が決まる (p.103)

ズレの大きさ

小さなズレは無視されがち。【その1】

大きなズレはサブタイプ処理をもたらし、新たなサブカテゴリーがズレを説明。【その3】

中程度のズレは、ゆっくりと着実に期待を改訂(e.g., Rothbart & Lewis, 1988; Weber & Crocker, 1983)。【その4】

スキーマの複雑さ=関連領域の知識発達の程度

スキーマの発達初期(新しいスキーマ):確証的検索。新しい不一致情報受付。弱い期待からのズレに気づきにくい。

スキーマ発達後期:期待と経験のズレに気づきやすく、より精緻な処理。【その3】の橋渡し。弱い期待の場合は、【その4】の改訂を含むことも。

3) Representation 表象(p.104)

期待一致・不一致情報の符号化の違いは、期待の中での表象の違いにも影響。

期待一致情報

注意が十分に払われず、詳細は符号化されない。期待と同化。

期待された出来事は抽象的に保たれ、意味的な形態の表象。

期待不一致情報

十分に注意が払われ、詳細が符号化。

既存の知識を考慮して理解することができない。

期待されていない出来事は詳細に記憶され、文脈特定のエピソード的な形態の表象(Sherman, Klein, Laskey, & Wyer, 1998)。

4) Memory 記憶(p.104)

期待一致・不一致の刺激の記憶は、様々な点で異なる。

この違いは、一致・不一致情報の注意、符号化、表象、検索の方法から生じる。

様々な重要変数によってこの違いは調整される。

Recall and Recognition 再生と再認(p.104)

期待不一致情報の方が自由再生も再認も優れている

Alba & Hasher, 1983; Stangor & McMillan, 1992

ステレオタイプ的な行動はそのような行動をやっていない人々に間違って帰属されることがしばしばある(e.g., Mather, Johnson, & De Leonardis, 1999; Sherman & Bessenoff, 1999)。

期待不一致情報の記憶

不一致情報の深く精緻な符号化→記憶に残りやすい(e.g., Craik & Lockhart, 1972)。

作業記憶で考えている時間が長いため、接近可能性が高まる(Higgins, 1996)。

不一致情報の特徴を詳細に符号化することが次のときの検索手がかりとして用いられる(e.g., Einstein & Hunt, 1980)。

不一致情報を理解しようとするとき、記憶内の他の情報と結び付けられ、広いネットワークが作り出される。検索のときのそのネットワーク上を通ることになるかもしれない(e.g., Srull & Wyer, 1989)。

詳細への注意と、期待不一致出来事の符号化と結びついた理解が、情報の詳細をそのままエピソード的に記憶する可能性を高める(e.g., Klein et al., 2002; McClelland et al., 1995; Sherman, 2001)。

期待一致情報の記憶

注意が払われず、精緻化もされないため、抽象的に表象され、正確に思い出されにくくなる。

Response Bias, Search Strategies, and Familiarity Increase True and False Memory of Expected

Information 反応バイアス、検索戦略、既知感が期待一致情報の記憶の真・偽を高める(p.104)

期待一致出来事の記憶への反応バイアス(出来事に一致していたと報告するバイアス)。

期待一致出来事の処理しやすさ。期待に一致するものは、実際に起きていなくても既知感を感じる。

出来事がどんなだったか思い出すよう言われたときに、期待一致情報を仮説確証的に検索(e.g., Hirt, 1990; Hirt, Erickson, & McDonald, 1993)。

Moderators of Memory Effects 記憶効果の調整変数(p.104)

期待の強さ

期待がはっきりと、一貫としたものになって、焦点がたくさんあてられるほど、不一致出来事の驚きは増し、一致出来事は当然のこととなる(e.g., Srull et al., 1985)。

符号化時の利用可能な処理容量のレベル

認知的負荷状況では、期待不一致情報により注意を払い、より詳細に渡る符号化。

符号化時に認知容量が制限されている場合、期待不一致出来事の記憶がすぐれている(e.g., Sherman & Frost, 2000)。

認知容量が減ると、人々は既知感、バイアスがかった検索戦略に頼り、期待一致出来事や典型的出来事を思い出す。

これらの要因は、期待一致出来事の記憶を真とも偽ともしてしまう可能性を高める。

5) Summary まとめ(p.105)

期待がもたらす認知的結果についてまとめた。

期待の一般的な分派

バイアスがかった仮説検証

期待ヒューリスティック

期待同化解釈効果

期待の特定的な分派

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期待の確証・非確証

処理のしやすさの効果

注意の効果

解釈の効果

符号化の効果

理解の効果

表象の効果

記憶の効果

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これら全ての認知的結果は、次に効果的な行動を導くという特定の目的のために、経験から有益な情報を抽出するためのものである。

5. AFFECTIVE CONSEQUENCES

期待がもたらす感情的結果(p.105)

期待に対する感情反応は、目標進捗に関する制御シグナルとみなされている。

ポジティブ感情は進捗が十分であることのシグナル。

ネガティブ感情は十分でないことのシグナル。

ここでは、この点について深め、さらに感情制御の例として楽観主義について、感情的結果を広くとらえることで、態度、美学、ユーモア、抑うつの研究にもふれる。

1) Behavior-Oriented Affective Consequences 行動志向の感情的結果(p.105)

Negative Affect Fuels Behavior Changeネガティブ感情が行動変化をあおる(p.105)

期待が確証されないときのデフォルト反応は、ネガティブ感情(Mandler, 1975; Olson et al., 1996)。

ネガティブ感情は、問題解決に向けての行動努力へとせきたてる(McDonald & Hirt, 1997; Schwarz, 1990; Taylor, 1991)。その際、前節で説明した認知的結果を媒介。

後悔・落胆研究

ネガティブ感情が行動変化をせきたてていることを示している。

Negative Affect Is the Default Response to Processing Fluency Disruption

処理しにくいときのデフォルトの感情反応はネガティブ感情(p.105)

処理しにくいときのデフォルトの感情反応=ネガティブ感情。

処理のしやすさが妨げられているとき、不快感情を経験(Reber, Winkielman, & Schwarz, 1998; Winkielman & Cacioppo, 2001)。

Expectancy Disconfirmation Shifts Evaluation via Contrast Effect

対比効果によって非確証期待は評価を変える(p.105)

失敗や成功への反応は、失敗・成功の結果の本来の質だけでなく、期待によって結果がどのように枠づけられるかによっても変わってくる。

ネガティブ結果→予測していた場合(expected)→不満足

→予測していなかった場合(unexpected)→不満足(大)

ポジティブ結果→予測していた場合(expected)→喜び

→予測していなかった場合(unexpected)→喜び(大)

そのメカニズム

期待と結果の比較(Mellers, Schwartz, Ho, & Ritove, 1997; Roese, 1997)。

期待の非確証結果→期待していたが得られなかった結果と比較(反実思考の比較)。

得られなかった結果が良いもの(上方反実思考の比較)か悪いもの(下方反実思考の比較)かによって、実際の結果がよりよく思えたり、悪く思えたりする(Roese, 1994)。

期待のバーを下げる戦略

戦略的に成功の期待のバーを低くめることがある(Shepperd et al., 2000; van Dijk, Zeelenberg, & van der Pligt, 2003)。

2) Optimism and Affect Regulation 楽観主義と感情制御(p.106)

平均的に人々は楽観的。

自分の未来を考えるとき、ネガティブに見るよりもポジティブに見る(Newby-Clark & Ross, 2003)。

楽観的判断の基準となるもの

類似他者

良い出来事・悪い出来事が自分に起こる確率は、類似他者と比較して予測。

非現実的な楽観主義(Radcliffe & Klein, 2002; Weinstein, 1980; Weinstein & Klein, 1996)。

現在の状況

未来は現在よりも良くなると予測する傾向。

上方継時比較(Heckhausen & Kruger, 1993; McFarland & Alvaro, 2000; Wilson & Ross, 2001)。

実際の結果

時間が経過すると、実際に起きた客観的なものよりも、豊かな報酬を予測する(Mitchell, Thompson, Peterson, & Cronk, 1997; Wirtz, Kruger, Scallon, & Diener, 2003)。

計画錯誤。未来の目標、宿題などの達成について判断するとき、実際に終わるよりも早く終わる(短い時間)と予測(Buehler, Griffin, & Ross, 2001; Kruger & Evans, 2004; Newby-Clartk, Ross, Boehler, Kohler, & Griffin, 2000)。

非現実的なまでに楽観的なのはなぜ?

自己関連情報を自己中心的に強調したため(e.g., Karniol, 2003; Kruger & Burrus, 2004)。

楽観的な期待をもつとポジティブ感情が生じるので、動機づけられているため。【感情制御】

ポジティブ幻想は極度なものでなければ、役に立つ。

精神的健康(Kaiser, Major, & McCoy, 2004; Scheier, Carvr, & Bridges, 2001)。

不幸な出来事の対処(Aspinwall & Taylor, 1997)。

身体的健康(Peterson & Bossio, 2001)。

免疫システムの機能の指標(Segerstrom, Taylor, Kemeny, & Fahey, 1998; Taylor, Lerner, Sherman, Sage, & McDowell, 2003)。

生産性や持続性、人生満足度(e.g., Gilham, 2000; Seligman, 1998)。

近年の理論;動機と認知の相互作用からメカニズムを説明(e.g., Kruglanski, 1996; Kunda, 1990)。

感情予測研究の知見の扱い

感情予測研究のインパクト・バイアス=未来の出来事の感情的なインパクトを誇張する傾向(Wilson & Gilbert, 2003)。

感情経験の強度と持続期間。

予測と実際の比較でバイアス。

ポジティブ感情でもネガティブ感情でも、実際よりも強度や持続期間が大きい。

楽観主義の研究知見と感情予測研究の知見は矛盾する?

判断しているものが異なる。矛盾はしない。

*感情予測研究;未来の出来事の感情的インパクトの判断。

*楽観主義研究;自分の未来の確率判断。

3) Broader Affective Consequences 広義としての感情的結果(p.107)

これまでまとめてきた感情的結果は、期待確証の直後のこと。

次に、広義としての感情的結果である、態度、美、ユーモア、抑うつ、についてまとめる。

Attitudes Reflect the Intersection of Expectancy and Value

態度は期待・価値の交わりを反映(p.107)

態度はある特徴の価値に関する信念の集まりであると同時に、その態度対象にその特性が含まれているかどうかの期待確率でもある(Ajzen & Fishbein, 1980)。

Aesthetic Appreciation Hinged on Moderate Expectancy Disconfirmation

期待が中程度に裏切られると美しい(p.107)

新しい芸術は、人々の期待から中程度に外れていたときに評価される。

期待からのずれが極端でも小さすぎてもだめ。

Reber, Schwarz, & Winkielman (2004)

主観的に美しいと感じるようになるのは、対象の処理が流暢すぎない場合である。対象が処理しやすいと、面白みが感じられず、処理しにくいと、期待とのズレを説明しようとする認知プロセスに入ってしまう。

Humor Derives from Resolution of Incongruity 期待不一致を解消すればおもしろい(p.107)

ユーモアを感じるまでには2段階(Suls, 1983; Wyer & Collins, 1992)。

不一致からくる驚き

素早くその不一致が脅威にはならないと解消

Depression Involves Hopelessness Expectancies 抑うつは希望なき期待(p.107)

抑うつの兆候…未来のネガティブな出来事に対する全般的な期待。

抑うつのホープレス理論(hopelessness theory of depression)(Abramson et al., 1989)。

4) Summary まとめ(p.108)

期待の感情的結果についてまとめた。

期待に対する感情反応は目標進捗のための制御シグナル。

自分に関する出来事の期待は楽観的。

広義の感情的結果(態度、美、ユーモア、抑うつ)。

6. CONCLUSION

結論(p.108)

未来を予測すること=未来を効率よくナビゲートすること。

本章では行動制御、効果的行動、生存の観点から期待についてまとめた。

意味的期待とエピソード的期待→パフォーマンスを促進。その方法はそれぞれ異なる。

意味的期待

様々な先行経験のまとめであり、抽象的、潜在的、効率的。

効率的で正確な行動と解釈を導く全般的知識や常識を豊かにする。

例;7月の晴れた日は暑くなりそうだから薄着にしよう。

エピソード的期待

過去の特定の記憶から引き出される。

具体的、顕在的、深い特定の情報をもたらす。

大小さまざまな計画を含む。

希望に満ちたイメージによって動機づけを高めたり、段階的にどう行動したらよいかを顕現的にすることによって、望ましい目標に向けての行動を導き、パフォーマンスを促進。

問題や障害を予期することが事前対策となる回避行動に。

例;今夜のディナーについて、来年の夏の結婚式について

現実を作り出す期待は、人間にとって非常に役立っている。

行動を導く期待が役立つかどうかはその正確性次第。

期待が確証されない場合には期待は改訂されなくてはならない。

確証されなかった期待は、説明や理解するために、注意、認知資源を必要とする。

その結果、1)ズレを無視、2)ズレを付加、3)新しい洞察とズレの橋渡し、4)深いレベルでの期待の改訂、のいずれかに。

期待は心理学の基盤的概念。本章では社会心理学の観点から、効果的行動制御における機能的基礎についてまとめ、その主要機能を支持する認知的・感情的結果を第二機能と位置づけた。

社会認知神経科学によって、特定の認知機能と結びついた脳の構造を瞬時に指し示せるようになりつつあるが、本章が機能志向の新しい研究への指針をもたらすように構成した。

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